黒と赤

いちばん大切(ぬるめのお題014)

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 見上げると三つの蒼い宝石が不規則にウェルギリウスの両の耳元で揺れる。
 先日旧友もよく赴いているオディールで細やかな喜びの証しとして人間に両耳を貫かせのだ。
 肌を紅潮させ快楽に飲まれた小さな呻き声をあげながらデキウスの腹の上で淫らに腰をくねらせているが、城に戻ってからもかの人間に心を寄せているようだった。
 とろりと甘ったるく溶ける蒼玉と同じ色の石が触れあう音は本人が聞こえるかどうかの微かなものだが、その存在感を与えるには充分だ。
 白くしなやかな身体が美しい弧を描きながら仰け反りデキウスの熟れた身体へ精を吐くと、それと共に締まる内部へデキウスもまた埒をあける。
 荒い呼吸の中、糸の切れた人形のように上体が揺らぎ倒れ込んでくるのを受け止め、先程まで激しく鳴いていた寝台へと横たわらせた。
 未だ赤みの残る顔に三つに連なったピアスが散り、まるでデキウスを咎めているようにも見える。
 もっともデキウスがそんなことを感じる繊細さを持ち合わせているとは思えなかったが。
 ウェルギリウスにとってこの装身具は人間との絆であり、この囚われの生活から外界を思い出させる大切な品であるようだった。
 意識がある時には触ることも許さず、デキウスの手を叩き落とす勢いだ。
 自分に刃向かってまで何がそうさせるのかデキウスには理解できない感情だったが、自分にはこのように執着しているものがあったかと思案を巡らせる。
 これまで様々な物を奪い、手に入れてきたデキウスだったが、ふと自らの親指を飾る指輪に目を落とした。
 旧友からルーフェロの夜の前日に受け取った血のように赤く輝くスタールビーのはまった銀製の指輪だ。
 聖族の力を纏い、己が闇で包んでいなければ肌を焼くそれはルベウスの眼であると本人から聞いている。
 何度か右目を抉ろうとする場面には立ち会っているが、神の力が尽きる事もなく吹き出した光によってルベウスの体力が削られるだけだった。
 ルベウスの主の介添えで奇跡的に生み出せたものを加工し、デキウスの指に合わせて態々作らせたと聞けば悪い気はしない。
 聖なる光を封じるかのような意匠のそれを見つめ、以前ルベウスの前でもしたようにそっと口付けを落とす。
「確かにこれは他の者が身につけていたら不愉快だな」
 その不快感がどこからくるものなのかは詮索せず、未だ意識の戻らないウェルギリウスを抱き抱えると隣接された湯殿へと足を向けた。