黒と赤

I’m always here

 

 共に過ごした時間は長い。人間で言うならば、何度も転生を繰り返し、巡り会った時間だ。
 だがそれはあくまで人間の概念であり、聖族も魔族もそこに特別な意味を重く置くことはない。価値がないわけではないが、『寿命』という縛りがほぼ無いに等しい種族にとって、財産や子孫を残すことを急ぐこともない。
 だからというわけでもないが、人外は往々にして多情だ。伴侶を持ちながら他の誰かと恋を楽しむことは珍しいことではないし、百年続いた相手でも急に興味の失せた玩具のように顧みることがなくなることもある。

 俺たちの関係は何か。

 パートナー?

 否。

 恋人?

 そう呼ぶ連中が多いことは知っているが、ルベウスは鼻先で嗤うであろうし、俺は肩をすくめる。
 ルベウスにとって恋は仕事で、いささか辟易する退屈なもので、そしてプライベートには要らない物だ。彼の囁く睦言がいかに完璧で愛撫が極上であろうと、そこには彼の 『欲』はない。

 俺は愛という概念がわからない。ルベウスの主人に言わせれば理解しないだけだろうと揶揄まじりに言われるが、俺にすれば嫉妬も執着も思いやりも、相手に対する尊敬も束縛も全てを鍋に放り込んだような都合の良い言葉で、そこに核は見えない。そこにあるのは己の感情を処理しきれなくなったものに対する、適当な記号(言葉)を当てはめた結果だ。

 常にそんな面倒なことを考えているわけではないが、とりあえず俺にとって『愛している』という言葉に意味も重さも理解もないことをルベウスは知っている。
 それで十分だ。

 妹のマイエスタが、そんな俺を哀れんでいるのも知っている。欲しいと思わぬものの価値を珠玉のように言われても何ら意味をなさないことを彼女も覚えるべきだろう。

 ルベウスの体温の低い手のひらがするりと俺の頬を撫で、彼の身体から柔らかく漂う花の香りのする腕に抱きしめられる時、俺が何を感じているか話したことはない。

 だが、やはりルベウスは知っている。

 自分を求める優越。我が物だという独占の主張。そして相手の持っている欲望が自分に向けられる満足感。

 そこに「愛している」などという言葉があれば褪せてしまう一瞬。

 俺はその一瞬への応えに回した手に唇を寄せて、ルベウスの顔を見上げる。見慣れた片方だけの薄蒼の目と視線が絡んだ次に、彼がどうするかも知っている。

 それは繰り返された怠慢でも退屈でもなく、そうあらねばならないような法のようなものだ。
 お互いが常にそこにいるように。帰る場所がそこであるように。

 微笑を交わして、くちづける。
 愛という言葉で縛らないから、それを繰り返すだけ。

 

 「百年後? どうせお前がまだここにいるんだろう──」

 うんざりしたように笑いながら、俺の指で髪を梳かれて目を細めるルベウスを見るのは悪くない。 

 

 


【余談】

今回も作ったポーズとスクショから絵を起こしてくれました°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

スクショだと顔が見えない!!と言いつつ、顔が見えるようにしてくれましたw
愛という言葉が理解できないデキウスと、意味がないと思っているルベウスの、そこを超えたイチャイチャを書きたかったのですが、上手くいったかしら…