黒と赤

メール(ぬるめのお題024)

お題がメールでしたが、ファンタジーにそんなものはないので(笑)、書簡に置き換えて書きました。


【デキウス編】

 ナハトメレクから大鴉が書簡を携えてデキウスの城に舞い降りる。影に伝えればいいものを、ルベウスがこういう形式めいたことをするのが好きなのは、主人の影響が大きいのだろう。
 黒に近いような深紅の封筒に、黒の封蝋。そして浮かぶのは銀の流麗だがクセのある文字だ。
 デキウスは黒大理石のペーパーナイフで封を切る前に軽く深呼吸をして、その封筒から漂う香りを体内に入れた。よく女性が便箋に香水を振るのは、「私を思い出して」という意味らしいというのを聞いたことがあるが、この場合は何と言うのか。香水ほど主張せず、それでいて意識下に潜り込む。
 聖族時代に彼の住処でいつも焚かれていた香と同じ香りがする。
 ゆったりと寛いで眠りの淵を覗き込むようで、腹の底の熱い欲望をじわり思い出させる香り。 
 封を開くと、黒の便箋にはいつもの通り短い文面だ。
 ルーフェロの夜が近いこと、準備をしておくこと。
 そしてサインとそこだけ赤のXが一つ。
「毎年律儀な奴だ」
 デキウスは赤い部分に唇を押し当てて更に香気を愉しむと、便箋を封筒に戻してルベウスから来たこれまでの書簡が放り込んである箱に入れた。
 



 【ルベウス編】

 全身が悲鳴を上げるほど痛むのと、体の中から全て溶けて快楽だけが残ったような余韻に目を覚ます。身を起こそうとすると四肢が重いが、何故かアストラルで居たときの感覚に似ている浮遊感もある。
 今朝は主人からの書簡により、オディールに戻らねばならない。身を清めるか、と髪をかきあげたところでこめかみの一房が、血で固まっているのに気付いた。触れると、パリパリと音を立てて乾いた血がシーツに落ちる。
 錆び色のそれをじっと見ていたが、殆ど無意識に指先を舐めて、その粉を口に含む。
 ぼんやりと静かに漂っていた快感の余韻が熾火のように目を醒ますのを感じて、側でまだ眠っている旧友を見た。今朝はオディールに戻らねばならないと言ったのに、常以上の快楽の泥沼に誘っておいて惰眠を貪るような姿がどこか憎い。
 悪戯をしてやるつもりで薄く開かれた唇に人差し指の関節を押し当てた。
 そっと開き、舌を探る。歯列を撫で、柔らかな裏を擽ると、眠りから覚醒する不明瞭に漏れた声よりも、舌が絡むことで目覚めを知った。
 指を咥えたまま、眠りから覚めた曖昧な意識のせいか自分を見上げる視線が、どこか無邪気に見える。
 無邪気で貪欲だ。
 旧友はニヤリと笑うと、シーツを跳ね除けて下肢を曝して同じ目でルベウスに口淫を求めた。すでにデキウスも似たような熱で誘っている。
 指を引き抜くと音を立ててそれを舐め、キスで唇から欲望の中心へと降りていき、口に含んだ。
 ここにも昨夜の精の匂いと血のにおいが残っていて、それを奪おうとするように舐めた。
「歯を立てるなよ? 今からあれじゃ、お勤めに差し障るぞ?」
 普段のデキウスからは想像できないほどの優しげな仕種で髪を撫でてくるが、ルベウスは視線を上げて悪戯げに嗤うと、小さな牙先で傷をつけない程度に敏感な場所を掠める。
 一瞬、撫でていた髪が摑まれ、その反応にルベウスは喉で笑った。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です