黒と赤

【魔06】 個人授業(ぬるめのお題:025)

 天より堕ちた日に起こった急激な身体の変化と傷を癒す為に身を寄せた屋敷は簡素な作りではあったが、聖界にいた頃の白く塗りつぶされた部屋と比べるとデキウスにとって居心地の良いものだった。
 生来の闇が再び戻った為に聖界では色の無かった身体も以前の色を取り戻している。
 裂かれた背の傷は深い眠りとルベウスの手当てによって回復を見せ始めたが、未だ眠っている時間の方が長いのは 侵蝕した瘴気が抜けきっていないからだろう。背に感じる気配にふっと目が覚めると、ここ数日常に感じていた友人の手が柔らかくエネルギーを送っていた。
「……っ」
 名を呼ぼうとしたが背中を内側から突き破るような激痛と乾いた唇は上手く言葉を発せられず、諦めて身動ぐことで目覚めをルベウスへ伝える。
「起きたか」
 目覚めを知ったルベウスは回復を促す酒をオニキスのゴブレットへ注ぎ徐にあおると、デキウスの顔の横へ手をつき口移して飲ませてやる。
 起こして飲ませるよりも楽に出来ると経験からの判断だ。
 幾度か含んだ酒を流し込み終わると共に舌を絡め、深く口付ける。
 直接自分の力をデキウスへ注ぎ入れる為に口付けを続けながら背に触れると、デキウスもまた求めるように腕を絡めていく。
 聖界にいた頃力を分けあう術をデキウスから学んでいたルベウスは、堕天の影響で弱った身体へエネルギーを送るやり方をとっていた。
「……は…っ……」
 デキウスの唇から痛みの為か苦しげな吐息が漏れるが、幾分か艶を含んだそれは先を促しているように思えた。
 横向きの体勢から軽くうつ伏せにさせ、血の滲むひきつれた跡が未だ生々しい背を晒させる。
 項の辺りから唇を這わせ醜い傷跡へ躊躇いもなく口付けを与えると粘膜を介して強く力が流れ込む。
 軽く開いたデキウスの口へ指を差し込み柔らかい舌が指の形を確かめるように絡まってくるのを楽しむ。
 ぬるりとしたその感触と、背の傷から咥内へ広がるデキウスの血がルベウスの身体の奥深くからぞくりとした快楽の灯を点けさせた。
 手負いの相手であっても欲情を覚えるというのも、ここ数日の間にデキウスから身体をもって教えられたことだ。
 被さるように身体を重ねて血の滲む箇所へ舌を這わせると熱を持ち始めた下肢を押し付ける。
「……っ、ルベウス……」
 呻くように名を呼ばれて思わず強く力を入れていたのを気付かされ、ルベウスはゆるゆると身体を離した。
 これ以上デキウスの血を味わうと理性が利かなくなる、というのも経験から分かっている。
 逸る熱を抑え込み、喉の奥で呻き声を噛み潰すデキウスを負担の少ない体勢にすると多少楽になるのか深い吐息を漏らした。
「…………」
 意識を刈り取るほどの痛みによって続けられそうもないのが口惜しいと言わんばかりに笑い、ルベウスの右目に巻く布地越しに顔を撫でると一瞬瞼を震わせて再び眠りに落ちる。
 デキウスの額に浮かぶ汗は痛みによるものだろう事が知れ、そっと拭ってやりながらこめかみへ口付ける。
 堕ちた際に初めて見たデキウス本来の艶のある黒髪に触れ、聖界で彼がしていたように指を通し梳いていった。
 


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