お題 「このまま隠し通すつもりだったのに」
体の関係だけが知己を増やすような状況で、そんな連中の中でもルベウスの話を時々耳にすることはあった。大抵は「堅物」「変人」「こちらが滅入る」「それでも一度試してみたい」だったが、たまに「彼の閨房術と性格の落差に泣くしかない」などという話が漏れ聞こえ、躓きのようにデキウスの心に引っかかる。
彼も下級天使のように無垢でもなく、先日のように主人に命じられれば一度に二人の相手をする閨にも赴くのは承知しているのに、だ。
誘われて気が向けば、彼とて誰かの寝台に上がることもあるだろう。
「で、お前はそろそろルベウスを落とせたのか」
今はあるじのいない豊穣の館にあつまり、以前と同じように複数と快楽に耽ったあとで、口さがない悪友とも呼べぬ知人が、酒を片手に発した言葉に、デキウスは頬杖から顔を上げて思わず眉を上げた。
「落とすって、俺が口説いてるようじゃないか」
「違うのか?」
周りの友人たちに同意を求めるように見回すと、みなそう思っていたというように頷く。
「口説く理由がない」
デキウスはまるで自分に言い聞かせるように失笑して答えた。
「まあ、そういわれればそうだな。相手にこと欠かないどころか、相手が順番待ちだからな」
誰かの言葉にどっと笑い声が起こる。
「じゃあこのなかで誰がルベウスを一番に寝所に招けるか賭けようじゃないか」
暇をもてあましている旧神たちが、男女問わず口々に参加を表明する。デキウスは馬鹿馬鹿しい、と言うように肩をすくめて別れを告げると館を出た。
鳩尾のあたりに不快感が淀む。
近頃では馴染み深い『穢れ』だ。
ここを訪れる前に斎戒宮へ行ってきたのだから、理由はおのずと知れる。
意識して考えるとまずい。穢れ云々ではなく、考えたくない。
独占、嫉妬、羨望。
何がこれほどまでに自分の心を縛るのか。
抱きたいだけではすまないらしい、自分の心に気付きたくない。
抱いたその先など、いつも何もないはずだ。
いつもと同じ。
欲を満たし、征服したい気持ちを満たし、快楽に身を委ね、翌日には違う相手を求める。
なのに頬を撫でた時にルベウスが一瞬見せた表情が脳裏をよぎる。
自分が何が欲しいかなど、知りたくないのだ――と言い聞かせ、再び斎戒宮へと足を向けた。