黒と赤

一週間(ぬるめのお題009)

領地内に張り巡らせている影から知らせが届く。

地を這う影から遥か上空を見上げるとよく見知った男が城へと向かっている最中だった。

黒い翼をさざめかせて門扉の前へと降り立つと、主の許しも取らぬまま門を開く。

ここ数ヵ月忙しく飛び回っていたようで、自室の前で顔を合わせてみれば青白い貌が更に白く見えた。



「忠臣の真似事も気苦労がありそうだな」



そう笑って見せると、殆どの者が気付かない程度ではあったが普段よりも力の無い目で睨まれる。



「そう思うなら労をねぎらったらどうだ」



溜息のように呟くルベウスに演技がかった一礼すると頭を下げたまま白い手を取り、その筋張った甲へと口づけを落とした。

薄く眼を開けて見上げると、疲労の中に見え隠れする餓えを見つけほくそ笑む。

 

 「どちらがご所望だ、我が友よ」

 

 「…どちらも同じようなものだろう」



その一言で触れていただけの唇が明確な意思をもって吸い上げ、指の股へと舌を這わせていくと微かにルベウスが身じろぐ気配がした。

彼が城内に入った時点から影に潜まれたもの以外にもデキウスの闇はルベウスを取り巻き、産毛をそよがせる風のように包み込んでいる。

その微々たる刺激に唇の奥で小さく呻くルベウスの手を引き、自室へ恭しく迎え入れると特別に作られた重い扉が再び閉ざされた。 

 

次に主の部屋の扉が開いたのは丁度7日後で、その間デキウスを含め一人として出入りした者はいない。

普段通りの顔色と冷徹さを滲ませる瞳を取り戻したルベウスの身体には、濃厚な闇の気配が纏わりついていた。

 

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