旧友から無遠慮に声がかけられたのは丁度主からの託が済み、その対価としてほんのりと森の香りが残る木箱を手にした時だった。
影を通して呼びつけてくるのはいつもの事だが、それに応えるかどうかはルベウスの気まぐれ次第だ。
「お前が探していた偽書が見つかったぞ」
「……分かった」
辺境の城に引きこもっている旧友は、どういう伝手を使うのか時折伝説にも等しい書物や遺物を見つけ出してくる。
それが城主が殆ど入らない書庫兼書斎へと詰め込まれ、本来の価値からしたら全くもって不当な扱いをされているのだからルベウスは主の許可を取ることも無く勝手に書庫の整理を請け負っていた。
「何が面白いのか分からんがお前も飽きないな」
「少し口を閉じていろ」
普段とは段違いの速さで城を訪問した友人は来るなり書庫へと籠りきり、こちらを見る気配もない。
頬杖をついて眺めているのも飽き、椅子を移動させて真横まで来ると視界に入らない場所から指を伸ばす。
耳にかかる髪をかき上げ、そのまま頬へと滑らせるが友人は視線を外すこともなく熱を帯びた目で文字を追っていた。
デキウスは片眉だけ器用に上げると唇を舐め、友人の口許へと指を這わせる。
それは何かを思い出させるような動きで、唇をこじ開けようとしたところで歯を立てられた。
「少し、黙っていろ」
最後まで目線を書物から外すことなく言われ、デキウスは肩を竦めて指を下す。
「それの何がお前を虜にするんだかなぁ」
苦笑と共に呟かれた言葉も旧友の耳には届いていないようだった。