人と接するためではなく、肉を纏うことを許される聖族たちといえば、戦天使が有名だった。アストラル体ではない魔族の討伐には、実体があるほうがやりやすいという理由だ。しかし多くの戦天使たちはこれを穢れると嫌がった。
その中に今日の討伐を終えた一団が帰ってくる。
抜き身の剣はまだ魔族の血で汚れており、着衣も汚泥と血で汚れきっている。怯えたように見守る聖族たちがいるのを尻目に、彼らを快く出迎える姿があった。
「ご苦労だった、デキウス、ルベウスよ。酒宴を用意してあるゆえ、身を清めて来るがいい」
二人は顔を見合わせて肩をすくめると、上級の天使に型どおりの返礼をする。そしてその後姿を見送りながら、デキウスが呟いた。
「身を清めて、というのは、姿かたちじゃないだろう?」
「殺戮に高揚するなどは、聖族にあってはならぬのだよ。たとえ魔族相手であろうとな」
ルベウスが皮肉めいて笑う。
「少なくとも私は獲物相手に高らかに笑っていない」
「堕天しそうなほど、恍惚としていた奴がいたがな」
二人は「堕ちろ」とお互いに毒づくと、笑いながら酒宴の席へと赴いた。