黒と赤

【1/23】ゲーム(イラストより)【R-18】

テネブラエ城の書斎の隣の部屋は、ルベウスが勝手に自室めいた空間にしつらえた部屋で、聖界時代のように奔放に本を床に積み上げ、円陣を描くように並べた中央には、心地よいクッションがいくつも置かれていた。
 いつもはそこでルベウスが胡坐をかいて読書に耽っているか、あるいは寝そべりながら気楽な本を読んでおり、邪魔はしないといいながら結局邪魔することになるデキウスが、ルベウスの膝に頭を乗せて読書に飽きるかデキウスの懲りない横槍に根負けするのを待っていた。
 今日は珍しく二人が同時に本を読み始め、さらに珍しいことにルベウスの方が先に本を手放した。
 横目でちらりとデキウスを見遣り、いつもとは逆の姿勢でデキウスの膝に軽く頭を乗せて休息する。遠くからドールの奏でるピアノが聞こえてくるが、眠りを誘うほどのゆったりとしたものでもない。ましてやほんの数時間前にベッドから離れたばかりだ。
 退屈を紛らわす手段は色々とあるが、いつもは自分に仕掛けられるゲームを思い出して寝返りをうつと、デキウスの腿に顎を乗せて上目に顔を見上げた。
 身じろぐ気配ぐらいはわかっているようで、自分の膝の上に頭を乗せているルベウスを、本から目を上げずに手探るようにして髪を適当に梳いてくる。
 ルベウスはしばしその感触を愉しむようにして、撫でられて満足げな猫のように目を細めていたが、やがて唇を下弦の月のように上げて微笑を浮かべると、床に手をついて身を引き上げ、デキウスのベルトの尾錠を緩めた。
 また視線を上げると、今度は自分を見下ろしている真紅の眼差しとぶつかった。何も言わず、面白げにニヤリと口角を上げてまた本に戻る。
 ゲームを了解したと言うのだろう。
 ルベウスは前立ての釦を一つ一つ丁寧に外していくと、指先にも舌先にも馴染んだデキウス自身に触れて、顔を寄せるとそっと唇をつけた。それを左手で包むように握りこみ、さらにキスをデキウス自身の根元へと滑らせて行く。
 何度も繰り返した他愛ないゲーム。
 返事をしないほど何かに熱中していると言うなら、たとえ快感を煽られても本に集中しているが良い。そのかわり、意識が逸れると言うならば、こちらの要求を飲め。そうでなく、精を放つまで無視を決め込むと言うならばそちらの要求を飲もうではないか。
 単に相手の気をこちらに向けたいだけの、そしていかにそんなことは些末だと装えるかの、鼻先で笑えるぐらいの意地の張り合いだ。
 デキウス自身の熱の眠りを揺さぶり、目覚めさせ、その反応を手の中で感じながら、精を生み出す重みのある場所を口中に含んだ。歯はもちろん、小さな牙で傷つけぬように顎を大きく開き、舌を這わせる。
 手の中の熱は愛しさを覚えるほど素直に硬さを増して、上下に擦るごとに力強く頭を擡げてくる。立てるつもりがなくても漏れ零れる唾液と粘膜の触れ合う音と、熱を扱いて周りの布が触れ合う音が嫌でも耳を煽った。
 それに自身も煽られる。
 膝をついてデキウスの股間に顔を沈めて熱を追い上げながら、反対の手で自身の熱にも触れて快感を探り出す。
 デキウスの熱が存分に育ち、頬張って口中全体で愛撫していた場所から顔を上げると、後ろへと撫で付けた前髪を緩く掴まれて喉を晒すような姿勢にされた。
 高揚して陶酔したような目尻は朱を掃いたようになっているだろうし、無防備に開いたままの唇の端からは溢れた唾液が落ちようとしているのが判っていたが、ルベウスは髪を掴まれるという反応に、深い夢から醒めるような緩やかさの微笑を浮かべた。
 顔の傍らでデキウスが手にしていた革装丁の本がパタンと閉じられる音がする。
 男らしい親指が唇の端を拭ってきたのを、軽く噛んだ。
「悪戯か? おねだりか?」
 喉の奥で笑いながらデキウスの声が頭上から降って来る。
「お前の負けだ」
 欲情しているのを隠さぬ表情でルベウスが嗤う。
「勝てる奴がいるなら、不能だな」
 デキウスはそんな表情のルベウスを賞賛にも似た眼差しでそう言うと、続けろという代わりに掴んでいたルベウスの頭を下げさせ、屹立した自身へと導いた。
 言われずともと言うような従順さと献身さで、勃ち上がったデキウスの熱を口中へと吞み込んでいく。
 その感触にデキウスが一つ息を吐いたのを聞いて、ルベウスは視線を上げると艶やかに勝利の笑みを浮かべ、自身の熱をさらに自分で昂ぶらせながら、デキウスの熱を口の中で翻弄し甘く攻めたてる遊びを丹念に始めるのだった。

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