黒と赤

お題「もしあの子がこれを着たら」(ルーフェロの夜:5)

「お前を引き立てる」
 ルベウスはいつもそれと似たようなことを言って、デキウスにルーフェロの夜のための衣装や装飾品を届けに来る。実際、夜会で衆目を集めるほどに仕上がるのだから、彼の審美眼にもセンスにも疑問を持ったことはないが、ルベウスがそれらを選んでいるときには何を思っているのかと考えると、我知らず笑みが浮かんだ。宝石の色が何を引き立てるのか、服の裁断がシルエットをどう見せるのか、些細なことをイメージするのにそこに全てデキウスがいるわけだ。

 見栄えを最大限に引き立て、他人が鼓動を意識して性的なものを感じるほど魅力を出すこと。それらを仕上げるのはデキウス本人であることを、ルベウスは認識しているというよりも要求してくる。
 なので着飾らされているというよりも、これを十分着こなせるのだろうなという無言の挑戦にも似た抱擁に、こちらも抱き返している気分に近い。
 ルベウスが身を屈めてよく躾けられた執事のようにデキウスの袖のカフスを留め、さらに膝をついてウィングチップの靴の紐を結んだ。そのままデキウスを見上げ、合格だというように口の端を上げると同じ視線の高さに立ち上がった。両手をデキウスの髪に差し入れ、整えるように後ろへと梳き上げる。
 デキウスは少し頭を傾げると、挑発するような緋い視線をルベウスに投げて、どうだ、というように問う。
「寝所に列ができそうだな」
 ルベウスが視線を重ねて、皮肉めいた笑みを深める。
「一人経営の娼館か」
 デキウスはくつくつと笑うと、ルベウスを抱き寄せて装いの礼代わりのキスを送った。
「列の最後は私か?」
「いつでも専用に貸しきるが」
「当たり前だ」
 ルベウスは面白げに笑うと、余計な皺の一つも無いシャツの胸に手を置いてその体温と布の下にある筋肉の弾力を愉しむ。
「じっくりと脱がせるのを愉しみに、装わせているのだからな」
 そう囁くと礼が足らぬというように、唇を薄く開いて舌を覗かせた。
「貴族らしい可笑しな趣味だな」
「真似しても良いぞ?」
 デキウスの笑みの形になった唇を迎えて、ルベウスは喉の奥で笑った。