正面からルベウスの長く伸びた髪を掻き上げ、頭を傾がせてうなじに唇をつける。
少し汗ばんで湿った肌から、彼の身体のもつ香りがする。
いつも部屋で焚き染めている香にも似ているが、もっと仄かでもっと清々しく、深い部分で官能を刺激する。
良い匂いがする、と以前に言ったときは、薫香のせいだろうとルベウスは取り合わなかった。その香の香りすら、デキウスからすれば娼館で焚かれているものによく似ていると思うのだが、昔から主人に賜っているものだから一緒にするなと却って不機嫌にさせた。
確かに彼はこの香りに満ちた部屋で穏やかにリラックスし、読書に耽る。娼館での香りに似ているから、自分は催淫などという意識と結びつくのだろうかと考えたりもするが、考えたところで何かが変わるわけでもなく、自分はルベウスのこの香りが好きだった。
それにもうひとつある。
ルベウスはデキウスの眸を覗き込みながら、笑みを唇に滲ませて手がデキウスの熱へと這い降りてくると、すでに硬さを帯びたそれを撫で上げた。キスをしようというように唇を開き、半ば伏せた目で顔を寄せてくる。
それに応えない理由などなく、デキウスが開かれた歯列から温かで柔らかな口腔に舌を潜り込ませると、決して貪るわけではないのに蕩けるようにルベウスが絡んでくる。
先ほどからすでにルベウスの後ろに指を忍ばせて緩く快感を煽っていたが、さらに指を増やすとキスから逃れるように頭を仰け反らせ、喉を晒した。
嬌声とは言わないが、押し殺し濡れた溜息を漏らす。
そしてその指の感触に身体が慣れるまで、身を僅かに捩じらせて瞑目していたが、また薄蒼の双眸を開いてデキウスを挑発するように見つめて、口端を上げた。
熱を上げた眼差しと、混じりけなしに快感とデキウスを求めてくる表情が堪らない。
そしてそういう時から、いっそう香るルベウスの花の香りがあった。
そんな香りがあるとはルベウスにも教えない。
単に快感を昇りつめているだけでは溢れてこない、秘めた反応だ。
だからそれが好きだとは、囁くこともない。
その香りがいっそう濃厚にするために、こちらがさらにルベウスを求めることだけが、言葉の無い睦言だった。
いつかこの香りを閉じ込めた香油を作れたら、と思いながら薄く笑い、ルベウスの求めるままにこちらもそれ以上は耐えられないと思っていた熱を深く穿った。