下界から戻ったデキウスが真っ先に向かう斎戒宮。
フィディウスから討伐の任を解かれルベウスと共に神へ献上するための美術品や宝物品を収集する任を与えられたが、闇祓いで穢れを吸収しているために討伐を請け負っていた頃と大差ない状態だった。
殆どの聖族は彼が戻るとその強烈な穢れの気配に恐れ、近付こうともしない。
必然的に斎戒宮でも最深部に近い場所へ案内され、煉獄の焔で焼かれているのではないかと思わせる苛烈な浄化が行われている。
回復室で固形物が一切無い胃の中の物を吐き出し、湯で肉体の汚れも洗い流す頃には不快感が最高潮に達しているのだが、同じ責めを負っていても以前と比べて幾分か耐えられた。
ルベウスと触れることで音もなく降り積もっていた穢れが随分と減っていたからだ。
精神的なものは肉体を凌駕する、というのは本当らしいとデキウスは今更ながらに感じている。
他の旧神達と耽っていた肉の快楽とは違うルベウスとの行為は、交わりがなくともデキウスの澱を緩ませた。
下界に共に降りた時のみの交わりで新たな穢れが生まれようとも、触れられぬ時を重ねるよりもずっと軽い気がする。
「……堕ちぬようにと焦らされているのだけが難点か」
そう言いながら然程堪えているようでもなく、緩く口角を上げた。
自分には不似合いな湯の匂いが染みつく前にあがると、幾重にも重なった帳の向こうに先程まで頭を占めていた人物を見つける。
斎戒宮の雑用をこなしている下級天使に何事か指示をだした後、デキウスに気が付いて軽く目を細めて小さく微笑んだ。
柔らかい表情を見せるようになった。とデキウスは思っているがルベウスと付き合いの浅い者からはお前は何を言っているのだと奇異な目を向けられる。
分からないのならば自分だけの秘密と思えば気分がまた良い。
アストラル体から肉をまとい、ルベウスの指が己の尖った歯に押しつけられるとデキウスの唇へ触れる。
そのまま口に含み、一瞬香るルベウスの血に舌を絡めようとしたところであっさりと取り上げられ不満そうに眉をしかめた。
「続きは下で、な」
そう言いながら肉を解き、アストラル体の不確かさなど感じさせない顔で笑う。
挑発するような、デキウスの不満など見透かしているような笑みだった。
会いに来たのではないのか、と溜め息をつくと晴れた日に降る雪のように腹の底へ穢れが舞った。