「目を背けつつ」「手首を握る」。キーワードは「主従」
デキウスの伽の一件があってから、ルベウスは主人からそう指摘されるまで気付いていないことがあった。
「必要最低限しか肉体を纏わなくなった」
と。
討伐のときは変わらずだと思っていたが、自覚もあったので少し動揺する。
「命とあらば、いつなりと肉の器で参ります、我が君」
「そうか。私の前でデキウスと交われといえばそうするか?」
ルベウスが僅かに瞠目したのが面白いのか、主人は横顔を見つめながら口角を上げた。
「冗談だ。そんな顔ができるようになったのだな」
ルベウスは思わず目を背ける。この困惑の一部は間違いなく主人にあり、デキウスに有る。だが怒りではない。
向ける先のわからない怒りに、ルベウスは自分の手首を自分でぎゅっとつかんだ。
「お前を虐めるつもりはないが、今のお前も哀れだと思う」
ルベウスにその言葉の意味はまだ見えない。