「ぎくしゃくとしながら」「鼻先をつつく」。キーワードは「駄目」
ルベウスの主からの呼び出しにデキウスが応じてから数週間が経ち、互いに妙な距離感を持ったものだと感じていた。
ルベウスは肉を纏う事が少なくなり、討伐でも偶然か故意か同じ隊に配属されないことが増えたように思う。
常に同じ面子と組んでいたわけでは無かったが、ルベウスとは比較的よく共に行動していた為に意識してみるとそんな気がしてならなかった。
ルベウスの部屋で穢れが貯まると言われ、唇だけでも自分の物にしようとしているかのように何度も重ねた夜、確かにこちらを見始めていると確信した傍からこれだ。
肉を纏わぬルベウスに触れることは出来ず、手に慣れ始めていた髪の滑らかさも体温も取り上げられた状態ではデキウスの腑にも重く貯まるものが重なっていた。
かって知ったるルベウスの塒へ赴くと、散らばっていた本や書類の整理をしていたようで久々に肉を纏うルベウスを見る。
「やはりその方が良い」
声をかけると一瞬手が止まるが、そのまま返事を返す事なく作業を再開する。
ルベウスのその態度に奥歯を噛み、大股で二人の身体の距離を縮める。
纏めた書類の束を持っていた手を取ると重い紙が音を立てて床へ返り、ルベウスは少しだけ批難めいた目を向けた。
「こちらを見ろ」
「見ているだろう」
何を言っているのかと訝しげな顔をするルベウスに溜め息を付きたくなるのを堪えて、掴んだ手に指を絡めていく。
その感触にルベウスの手が一瞬引きかけたが、逃げることを許さず強く握ると諦めたのか指の力を抜いた。
このまま抱き締めてしまいたい衝動に駆られるが、そうすると本当に逃げられてしまいそうでぐっと我慢する。
これまでどんな相手にも好きに振る舞っていた自分がそんな気の使い方をするのが不意に可笑しくなり、苦笑を浮かべるとルベウスの眉根が怪訝そうに寄る。
「俺は何をお前に遠慮をしているのかと思ってな。……お前に求められたいとはいえ、処女神の娘でもあるまいに」
絡めた指を頬に寄せ、自分の顔の貌をなぞらせる。
瞼から鼻筋を通り唇に触れさせると軽く音を立てて掌に口付けた。
「……お前にこうして触れるのも久しい気がするな」
逃げる気配も、肉体を解く気配もないルベウスに嫌悪感はないと判断したデキウスは以前ルベウスがそうしたように両手で顔を包み込み、軽く瞼に口付ける。
こめかみに、耳の後ろにと唇を押し付け、首元に顔を埋めるようにして抱き締めた。
鳩尾辺りに貯まる不快感は感じられず、暫くお預けをされていた黒髪の滑らかな感触を楽しみ、ルベウスから仄かに香る花の香りを充分に吸い込むと、耳元に唇を付けたまま互いにだけ聞こえる声で囁いた。
「お前はどうしたいんだ、ルベウス」