黒と赤

【聖45】 【11/18】お題「教えてあげる」

教えてあげる

 返り血を浴びて魔物を斬り捨てている時の方が揺るぎ無く冷静で、一筋の感情の乱れも見られないのは、聖族としてどうなのだという笑いが込上げてくるのを感じながら、目の前の男を見る。
 薄青の酷薄に見える双眸が自分の心の奥底まで見透かすようで、肉食獣が獲物に集中しているときを思わせるほど瞬かない。
 こちらを吟味するかのように頭を僅かに傾げ、薄く開いた歯列の隙間から濡れた舌先が覗いて、唇を舐めた。
 軍装の長い上着の横に入ったスリットから片足が前にのびて、廃墟の壁を踏む。その足先が腰ちかい高さにあるために、こちらは壁に押し付けられて威嚇でもされているようだ。
 だが、デキウスはその掲げられた腿を撫でてさらには腰に手を這わせて抱き寄せる。
 ルベウスの眸に面白がるような、そして餓えたような昂ぶりが浮かび、目を奪われる微笑が口元に浮かんだ。
「なんて顔をしてる」
 その表情を独占できる快感。
「ほう、どんな?」
 あくまで冷静で滑らかな声。
「教えてやろうか?」
 デキウスが揶うように言って指先で招くと、可笑しいほど素直に顔が近づく。そしていつくちづけても不思議ではない距離にいながら、こちらの眸をじっと覗きこんできた。瞳に映る自分を見ているのだ。
「よく見ておけ」
 そう言って熱と硬さを帯び始めている場所へと手を潜り込ませると、笑いを含んだ声で「知ってる」と囁きが返されてデキウスの口唇を貪るように塞いだ。