黒と赤

【聖43】 「じゃれるように」「指を絡める」。キーワードは「主従」

 巷ではルベウスがシャリートの子飼いであることは周知の事実であり、彼が主人の命で閨の仕事までこなすことから、その主従関係に肉体的なものまであると暗黙のうちに思われていた。
 ルベウスは尋ねられれば否定するが、相手がそれを嘘だと思い続けるなら意味が無いとでも言うようで、本人にすればどうでもいいことのようだった。
 デキウスが見る限り、二人の距離は確かに近く、主従以上のものがある。確かに当初はあれだけ重用されて何かと便宜を得ているなら、無いほうが不思議だと思っていた。だが今では、ルベウスは主人に対して絶対的服従と忠誠を持ち、シャリートは明らかに他の子飼いとは違う配慮をルベウスに見せて触れるのだが、二人の関係はルベウスの言うように肉体的なものはないと思っていた。
 性的なものを匂わせる接触をしてみせてもルベウスがそれを焦がれる表情を見せないからだ。そして何よりそれを否定してルベウスの利になることはにもない。政治的に利用するならば、むしろそれをちらつかせたほうが無言の圧力にもなるだろう。
 ルベウスはつまらない、とでも言うような表情でデキウスに言った。
「私が否定すれど肯定すれど、お前の思うところに添わなければ疑い続けるのだろう? それならば私の言葉も意味が無い」
 と。
 彼の言うとおりだが、ルベウスがつまらないと思う程度にデキウスにとってもどうでもいいことだった。
 だがいまは、そんな関係などないと確信している。ルベウスの視野狭窄的な興味の持ち方と一途な忠誠が揃っていて、さらにそこに肉体関係があれば、彼は自分に興味など向けなかったであろうという根拠だ。

 そして自分を覗き込むように見つめる薄蒼の双眸に微笑む。
「なんだ?」
 ルベウスが怪訝そうに目を眇めたので、なんでもないというように指を絡めた。お互いの関節の堅い部分が触れ合うのが心地よい。
「いや、真実など単純なものだなと思って」
「何の?」
「大したことじゃない」
 ごまかすように笑うデキウスに、ルベウスは怪訝な顔をしながら指を絡めたままの手を自分の腰の後ろへ廻し、デキウスが自分を抱き寄せられるようにいざなって悪戯げに笑った。
「ほかの事を考えていたのだろう?」
「いや、お前のことだ」
「どうだか?」
「証明する慈悲をくれ」
 デキウスはルベウスの腰に廻した手に力をこめて抱き寄せると、唇を甘く食んだ。