デキウスが戯れで触れてくる。いつものように髪に指を滑らせ、それにくちづけ、そのうちにうなじへと直接に。
背後から抱き寄せるために鎖骨あたりにあった逞しい手が、胸の筋肉を辿るように、そして明確な意図を持って鳩尾から下腹部へと辿りだせば、ルベウス自身その先に進むのか、身を翻すのかを選ばなければならない。
戯れにどこまで乗るのか。
どこまでなら引き返せるのか。
仕事の相手ならばその計算もすべて冷静にできるが、この相手ばかりはそれが鈍る。鈍るどころか制御できないときがあり、自分で自分に驚くことが多かった。
背後に押し当てられたデキウスの熱を感じながら、同じ手で自分の熱を煽ろうとしてくることさえ、内側から溶け出す甘さになる。
その手の甲に自分の手を重ねると、首をひねって背後からのキスを求めた。
デキウスの口腔に舌を差し入れ、その粘膜の熱さにルベウスの口角が上がる。くちづけているので相手には決して知られないだろが、同じ盲目的な甘さと熱さへ沈もうとする欲望が親密でもあり、秘密の共有でもあり、言葉が虚ろになる瞬間でもあった。
相手の全てを支配したい一瞬。
愛撫も視線も熱も、そして日常で薄く二人を隔てている何かも、全てが間違いなく自分の物に、そして相手のものになる一瞬に名前をつけるとしたら何がいいのか。
恐ろしく想うのは、その時間が果てなく続けばと頭を掠めることだ。
感じたいではなく、混じりあってしまえれば、と。
とろりとした甘さが口腔に溢れる。
ルベウスの牙によって、デキウスの傷ついた舌から溢れた血が、さらに欲望の枷を外し、もっと深くもっと貪欲にと全身が叫びだす。
これ以上進めば、吐精しない限り熱は収まらないと知っているが留められる理由も理性もない。
肌からの体温が欲しくて、てのひらで感じる皮膚の滑らかさが欲しくてデキウスの服を解いていく。彼の手はさらにルベウスを追い上げようとするが、すでに十分すぎる。すでに先走りの液体で濡れており、その先を求めて脈打っている。
言葉が出ない。
全身で求めすぎて、相手の全てを欲しすぎて、喉が詰まる。
デキウスの中で昇りつめて蹂躙したくて、自分の中でデキウスの熱を感じたい狂気を何というのか。
誰と何度寝ようが、全身をわななかせなかった狂気。
全身で罵りたいような怒りに似た激しい感情。
そして酩酊して永遠に沈みたい甘さ。
言葉が出ない代わりに、名を呼んでみる。
デキウス、と――。
相手の返答は無いが、いっそう深いキスとルベウスの中を探る指先の感触で思わずルベウスの頤が上がる。
この男は、自分がこんな焦燥とやりきれないほどの苦々しさと食いつくしたいほどの欲で混乱させているのを知っているのだろうか。
「俺の好きな眸だ」
デキウスはそう言って、目じりに唇を押し当てて来る。快感に染まった低い声が、またゾクリと背筋を撫でる。
らしくなく混乱するのが怖いのではなく、その一瞬が果てなく続けば良いと思っている自分を教えてやろうかと、ルベウスは薄く笑った。
もう一度名を呼ぶと、苦しさと快感を伴った質量が、おのれの体を押し開いてきたので、待ちかねていた熱を狂喜して呑みこみながら笑い声を立てた。
それが熟れすぎた嬌声にしか聞こえないことをまた自分で笑いながら、この男に狂う自分は嫌いではないと、何度目かわからぬ同じことを思った――。
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