許されるタイミングがあれば触れ、唇を重ね、情を交わすのが日々を占めはじめたころ、デキウスはルベウスのある表情に気付いた。
恐らくそれは自分しか気付かないであろう、熱の低い薄蒼の眸のさらに奥で揺れる僅かなものだ。そこまで彼の目を覗き込みなれて、表情を気にしていなければ知らぬままにいたものだろう。
デキウスの熱を受け入れて、首筋に両腕をかけて抱き寄せようとするルベウスに応えて身を屈める。
口中を犯しあうキスをしながら、濃厚になって立ち上る花の香りにデキウスが唇で笑った。
そして間近で眸を覗き込む。
氷に色があるならばこのような蒼だろうと誰もが思いそうな薄い酷薄な印象のある蒼だ。だがデキウスにとっては雄弁な双眸だった。
逸らさずに自分を見つめ返してくる目の中の欲望。
今この瞬間の翻弄されている快感に蕩ける熱。
そしてそれに満足していない更なる飢えと、何故か不安げな戸惑い。
デキウスにはその戸惑いの意味がわからない。
堕ちることへの不安なのか、自分と体を求め合う不安なのか。
その部分がいつまでたっても掴めないルベウスの一部だ。
もどかしさを欲望にしてぶつけると、彼は揶揄うように笑って顎を上げ斜めに見上げた視線で挑発してくる。
もっと寄越せ、と。
そしてある日気付いた。
デキウスに抱かれていようが、抱いていようが、飽くなき快感を貪っているときだけ、あの戸惑いが目の奥から消える。
それほど自分が欲しいのか、と腹の底から滲み出るような優越。
娼館でつかの間の快楽を求め合う相手も、確かに貪欲だ。
だが昇りつめることを重ねるだけの、底の浅い快感だった。だがそれがいいのだ。
ルベウスは違う。
こちらの奥底を全て暴いて、さらに寄越せと言う。そしてそんなに求めて大丈夫なのかという戸惑いを持ってまた求めてくる。
よかろう、それほど欲しいなら奪うが良いと。お前が食い尽くせるか試してみたい。
そのかわりこちらも同じだけ奪う。
どちらかが与えたものより足りないと思うまで、肉でも骨でも食らい合おうではないかと。 それが二人の知らなかった快楽を生み出すなら、何の躊躇いもない。
デキウスはそう思いながら、ルベウスののけぞる喉に歯を立てて、何度目かの熱を中へ注いだ。