黒と赤

聖04  お題【7/20】

「今、何してる?」「いつまでも交わらない、ねじれの関係のように」「思わず触れてしまいそうになった」

 


 

白夜のように仄明るい聖界の夜、デキウスに与えられた住まいで小さく扉を叩く音がする。
下界へと繋がる門に限りなく近い場で、しかも深夜に訪問してくる者はごく限られていた。
「手は空いているか」
誰何することも無く扉を開けると、ここ数日姿を見せなかった友人だった。
厳重に封じられた小箱を抱えたルベウスは心なしか顔色が悪い。
「空いてなくともお構いなしだろう、お前は」
相変わらず客をもてなす為の家具もない部屋でルベウスはさっさと寝台へと腰を下ろすと、小箱をデキウスへ渡した。
小箱を持っていた腕やその周辺の肉体は天に戻っても未だアストラルへ戻る気配はなく、小さな箱であるにも関わらず随分と強い力をもっているものだとデキウスは思う。
肉体を纏ったデキウスは小箱を手に収めると、封じられて尚影響を及ぼしている闇を自身へと取り込んでいく。
下界で慣れ親しんだ闇はデキウスの中に淀み穢れとなったが、心地よく身体を巡り下界での生活を思い出させた。
暫くすると小箱の封印がカチリと音を立てて外れ、中に収められた銀製の美しい指輪が姿を現す。
彫刻は精密を極め、透かしの入ったそれは見ていると吸い込まれるようだ。
小箱はこの聖界で存在を赦されるまで浄化されると自然と開くように細工されたもので、ルベウスが下界で神への品を探す時には欠かせない物となっている。
「助かった」
ルベウスは微かに笑みを浮かべ小箱を受け取ると、当然とばかりに肉体の解けぬ手を差し出す。
その手を取ると、デキウスは先程と同じようにルベウスの中で燻る闇を吸い出していく。 
「随分とあてられているな」
「少し、長く持ちすぎたか。だが最初の時よりは随分とマシだろう?」
ルベウスの座る寝台へ片膝を立て指を絡めながら跨ぐように身体を寄せる。
掌を押し付け指の腹で誘うようにルベウスの甲を撫でるが、その意味までは理解できないようだ。
真紅の翼がゆれ闇の影響が薄れてきたのを見て取ると、デキウスは両手でルベウスの頭を抱き髪へと顔を埋める。
ルベウスと混じった闇は彼の気配を色濃く残し、身体に取り込んでいるとまるでルベウスと混じり合うようだった。
肉の交わりを彼と試したことは無かったが、恐らく似たような感覚なのだろうとデキウスは思っている。
髪に埋めた顔を上げ、下腹からおこる衝動のままに唇へ触れようとしたところでルベウスの肉体がアストラルへと変化していくのを感じ、デキウスは苦笑を浮かべながら寝台から離れた。 
「また、頼む」
「出来るだけ早く来い。血を吐くぞ」
「気を付けよう」
デキウスの言葉にルベウスは挑発するような笑みを浮かべる。
それは本当にそうして良いのかと問いかけるような目だった。

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