黒と赤

聖07 お題【7/19】

 

「じゃれるように」「肩を抱き寄せる」。キーワードは「隠れて」

 


 

どこまでも明るく明度の高い空間が続く天界において必要不可欠でありながら表立っては言われずとも蔑みの目で見られる部隊が存在する。
聖族は堕天の危険性を孕むものを極端に忌避するきらいがあり、単純にしてその可能性が高くなるものが肉を纏い下界へと下ることだ。
堕天の誘惑は様々あるが人と交わる者、殺戮の衝動に取り憑かれ善性を失う者、とかく肉を持つと碌なことが無い、と思っている者も多かった。
回される部署の全てで苦言を呈され、そんな汚れ仕事とされるものを嬉々として請け負うデキウスは、ここですら一部の者を除いて一線を引かれていた。
 
 
魔族の血肉が飛び散った軍装はどす黒く染まり、白一色に塗りつぶされたデキウスにとっておかしな話だがそれは色を感じるものだった。
連れ立った一隊の面子の中では群を抜いて血を浴びており、頭から派手に被ったせいで輝く銀糸や純白の翼の見る影もない。
そして、同じように染まった軍装の者がもう一人。
隊ではあってもデキウスと同じように誰かと組んで狩りをしている気配のないルベウスだ。
デキウスは一人で現れたルベウスに労いの言葉をかけ、ルベウスもまた似たような言葉を交わす。
それと同時に天へと上がる際に奪われた色を思い出させる長く艶やかな黒髪に手を伸ばし、一束指に絡ませると遠慮も無しに自らの方へと引く。

「っ……何を…」

髪を引かれた反動でよろけたルベウスの肩を抱きこみ、逃げられないように身体を寄せる。
アストラル体では感じられぬ膚の手触りにルベウスの表情が一瞬変わった。
天界でこんな場面を見られでもしたら小煩い連中から何を言われるか分からないが、ここはそんな者たちが寄り付きもしない下界だ。
肉を纏い魔族を散々屠ってきた身体で触れ合うなど、天の者達にはいかほどの無礼となるのか。

「こんな風に触る奴はいなかったか?」

耳元で囁くデキウスの言葉に目を瞠り、そのすぐ後にとても天界に住まう者とは思えない程ニヤリと口の端を吊り上げた。
黒髪を絡ませている指も、短く切りそろえた爪にまで血が入り込んでいる肩を抱く手も気にせず嗤うルベウスに、デキウスの口角も自然と上がる。
 
「お前のような男が二人といるものか」
 

 

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