黒と赤

【20170813】Can’t wait 「待ちきれない」

 

湯船で温まりすぎた肌に、心地よくひんやりとした手が絡みつく。

帰ったという挨拶がないのは今更だが。

誰のものともしれぬ紫煙と香水を髪にまとわりつかせたまま、振り向こうとする俺の頬に唇を触れさせる。自分の足元やシャツが濡れるのも厭わずに、もっと近くに抱き寄せようという確かな意図をもって手が廻される。

俺が同じことをすれば不機嫌そうに眉を顰めるか、服が塗れるというくせに、と皮肉ってやろうかと思ったが、城に戻った挨拶すらも惜しんで背後から抱きしめてくるまっすぐな欲望に、思わず口元が緩む。

こいつに限っては、普段つらつらと滑らかに出てくる言葉よりも雄弁な情熱。

褥に相応しいという香と似た香りが、湯殿の湿った空気で二人の間にふわりと漂った。

言葉を求める必要も、腰へと押し付けられる熱を待つまでもない。旧友の隠しようのない欲望を教える香り。

「気が合うな」

俺は顔を覗き込んで口端で嗤うと、濡れた指で長めの艶やかな黒髪を梳き上げた